144 <私に絵をかかせるもの:物語(中)>
物語の力が強ければ強いほど、空想世界からの帰還は遅れる。遅れれば遅れるほど、物語の世界へ旅立つ前と帰還後とでは、私達の立ち位置は変わっている。同じ場所でじっとしていたとしても、変化している。なぜなら物語の中を通り抜けることで、見える景色や絵や聞こえる音を体験してしまうからだ。それが極個人的なものであることが重要だと思う。他者の介在しない世界は、現実には少ない。読むもの聞くものを濃密な一人にしてくれることこそが物語の素晴らしいところだ。それは絵を描く時の心持ちにとても近い。