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144 <私に絵をかかせるもの:物語(中)>

物語を遊ぶことは、人間の本能かもしれない。世の子どもが、自分勝手にセリフを独り言で交わしているのを目にすると、そう思ってしまう。少し粗野な遊戯かもしれないが、彼らがイマジネイションの世界にいることは充分見て取れる。その方法や世界の存在を、彼らは一体誰に教えてもらったのだろう。小さな世界を生きる上で、物語という娯楽を通して、目の前の世界と空想とが簡単に結びつく知性を持って生まれた生き物なのだと思う。何かを想像することなしに、現実だけを見て私達が生きてゆけないのと同じことだと思う。


物語の力が強ければ強いほど、空想世界からの帰還は遅れる。遅れれば遅れるほど、物語の世界へ旅立つ前と帰還後とでは、私達の立ち位置は変わっている。同じ場所でじっとしていたとしても、変化している。なぜなら物語の中を通り抜けることで、見える景色や絵や聞こえる音を体験してしまうからだ。それが極個人的なものであることが重要だと思う。他者の介在しない世界は、現実には少ない。読むもの聞くものを濃密な一人にしてくれることこそが物語の素晴らしいところだ。それは絵を描く時の心持ちにとても近い。


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by ekakimushi | 2010-02-16 07:33 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)