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767 <イサムギャラリーへ>

先月の11月も半ばを過ぎた頃、兵庫県の赤穂市の山間に、
画家であり絵本作家の故秋野亥左牟さんのお宅を訪ねました。

亥左牟さんが亡くなられて先月23日で丸3年。その日を目指して、娘さんのかぬかさんが自らの手で亥左牟さんのアトリエの改築を始め、この度イサムギャラリーをオープンされました。文章に書くとこれだけのことですが、fbでその過程を拝見していると、相当な作業難度と膨大な作業量があったことがわかります。私などには絶対無理です。意欲と意志と意地でもって、このギャラリーを完成させオープンに漕ぎ着けられたかぬかさん、そしておそらくその良き指南役となられたお母さんの和子さんに、一人の秋野亥左牟ファンとして深く感謝いたします。本当にありがとうございます!イサムギャラリーの詳しい内容については、下記サイトをご覧下さい。
http://isamuakino.com/wordpress/

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かぬかさんは御自宅の離れの一軒家を改築されたわけで、大工さんでもない彼女がよくぞやり遂げたものだと、まずそのことに感激してしまいました。そのことをお聞きしたら、「亥左牟の作品が、そろそろ見てほしがっている頃だから」とのこと。こんなにサラリと格好よく言えないですよ、普通は(笑)。


戸を開けてもらって入ると、いきなり『ムースの大だいこ』の原画が!初めて見ました。腱鞘炎になるんじゃないか?というぐらいに描き込まれたペン画に絶句しました。紙の上をペンが静かに何度も何度も行き交う様を想像すると、もう胸が一杯になります。この作品、初出の福音館版は、印刷時に星やオーロラに不要な色が盛られています。その後の架空社からの再発版は、原画通りの色で発売されています。あくまで私見ですが、福音館版ではなく、原画通りの架空社版を手に入れてほしいです。

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今回の展示で、なんといっても素晴らしかったのは、亥左牟さんが出版された各絵本の原画の名場面が、一枚ずつ展示されていることです。こんな贅沢はちょっと考えられない。10年近く前に美術館で泣きながら見た『プンク・マインチャ』、亥左牟さんが大変だったと話された『サシバ舞う空』の群れの場面、なんと製版時に反転されていた『石のししのものがたり』の表紙、トリミングを無視するかのような横長画面の『とうもろこしおばあさん』、高価な絵の具をこれでもかと塗り足してある『はまうり』、印刷の色では到底再現できなかった『たいようまでのぼったコンドル』の太陽光線等々。ああ、幸せだ。これだけのものは、余所ではちょっと拝めないだろう。このイサムギャラリーだからこそ可能なラインナップだと思う。

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ギャラリー内には個展でお目見えした一点ものの作品に加えて、亥左牟さんが方々へ旅をされた折にスケッチし、アトリエで仕上げられた絵巻物も展示されています。何本もあるこの絵巻物が一斉展示公開される事を、亥左牟さんが望んでおられると、昔何かの本で読んだことがありました。一挙公開となると、場所も取りますし、なかなか難しかったのでしょう。巻物の長さや保存を考えると、イサムギャラリーでも大変かもしれない。しかし可能性はあると私は思いたいです。もし実現したら、嬉しいだろうなあ、亥左牟さん…。


縁あって、かぬかさんから声をかけていただき、ギャラリーのプレオープンに呼んでもらったわけですが、実はその翌日が私の個展の搬入日でした。時間的に大丈夫かなと思っていたのですが、今行かないと逃してしまうものがありそうな気がしてなりませんでした。それが何なのかを上手く言い当てることができないのですが、ひとつ腑に落ちたことがありました。

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亥左牟さんの作品の原画の筆跡やペン跡を拝見し、アトリエの机、座布団などに触らせてもらうと、亥左牟さんは3年も前に亡くなっているにもかかわらず、作品の中やあのギャラリーのあちこち、またアトリエの窓から見える裏山の奥で、黙って息をしているように思えてなりませんでした。アミニズムのようなことを言いますが、亥左牟さんの魂がかの地の万物に宿っている気がするのです。おそらくこれから訪れる人も、似たようなことを感じるのではないでしょうか。


亥左牟さんの作品を見た日は、いつも時差ボケとか、大陸ボケのような症状になってしまう。たぶん絵の中に流れている時間が現実のそれとはあまりに違い過ぎて、容易に戻って来られないのだと思います。帰りの電車は、まるでシベリア鉄道のような気持ちでに乗って帰ってきました。


どうぞみなさんも、上記H.P.を参照いただき、是非最高の環境で展示された秋野亥左牟さんの芸術作品に接してみてください。世の中が思わしくない方向に曲がり出した今だからこそ、亥左牟さんの絵が語るところは大きいと思います。























by ekakimushi | 2014-12-08 21:06 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)