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781 <アニタは今もトレビの泉に(前)>

この十年のほど、いや、もっと長い間、ずっと思い当たることなのですが、私が心を寄せていた画家や作家や音楽家、俳優といった人たちが、どんどん亡くなってゆき、彼ら彼女らの逝去に際して、何か気の利いたことを当ブログで書きたいと思っている間に、ただ時間だけが過ぎてゆくのです。今年に入って、その流れを少しは堰き止めたい気持ちもあって、今日から六回連続で、最近亡くなられたマイ・フェイバリット・パーソンについて書きたいと思います。(日記の更新が途絶えがちなので、これをいい景気付けにしたいという思いも大いにありますが…笑。)今日はこの1月11日に亡くなったアニタ・エグバーグのことを。

アニタ・エグバーグという女優さんを、名優だ演技派だと評価する映画ファンは、そうはいないだろうと思います。むしろ、大根役者に近かったかもしれない。しかしそんじょそこらの大根役者ではない。大きなスクリーンで、人の持つ美しさを目一杯に強調してお客に訴えるのが映画というメディアの一つのあり方だとしたら、アニタ・エグバーグはその虚構の世界で最高に輝いた女優でした。彼女ほどの美しさと肉体に恵まれた女優は、そうは出て来ないと思う。映画女優ながら、彼女は演技という仕事にさほど執着していなかったのではないでしょうか。そのせいで見た目の強さがなおさら引き立った人でした。

私が初めてアニタを見たのは、テレビで深夜の時間帯にイタリアのオムニバス映画『ボッカチオ’70』の中の「アントニオ博士の誘惑」でした。フェリーニの大女趣味満載のとんでもないナンセンス映画でしたが、なんといっても巨大な人間になって暴れまくるアニタのお色気がショッキングでした。顔面の超ドアップも多く、目元の皺や化粧乗りの悪さも見て取れますが、十代の私はアニタ・エグバーグの魅力に惚れ込んでしまいました。何とふくよかで美しい女優なんだろうと。そしてその数年後に映画館で見た『甘い生活』が決定打でした。よくぞあの時期のアニタを、あんなに美しく撮ってくれたと、フェリーニと、カメラのオテッロ・マルテッリに感謝したいくらい。

『甘い生活』撮影時にはアニタはたぶん28~29歳。その美貌は絶頂期にあったと思う。とにかくめちゃくちゃに美しい。パパラッチが群がる中を、ハリウッド女優役の彼女が飛行機のタラップを降りてくるシーンは、猥雑なのに神々しいのです。アニタが演じるシルヴィアがマスコミを上から目線で軽蔑して、目一杯不機嫌そうに振る舞う姿がはまりにはまっています。有名なトレビの泉のシーンや、サングラスをかけて塔から下界を眺めるシーンは、たとえどんな演技力のある名女優にも任せられない。大根役者が一世一代のはまり役にソートされたとき、フェリーニにしか表現できない堕落した美意識の世界観がニョキッと顔を覗かせた!

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この美しさ!まさにスクリーンのアイコン。奇跡のワンショットだと思う。アニタがいなければ、果たしてフェリーニ映画はあり得ただろうか。フェリーニがいなければ、アニタはいなかったに等しいが…
by ekakimushi | 2015-02-05 14:29 | 私のお気に入り | Trackback | Comments(0)