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876 <『へろへろおじさん』のきもち>

『へろへろおじさん』という絵本があります。佐々木マキさんの作品で、福音館書店より「こどものとも」695号として2014年2月に発売されています。内容は、おじさんがともだちに手紙を書き、それを投函しに外へ出たのですが、ボールを踏んで階段から滑り落ちたり、二階からマットが落ちてきたり、街中でたくさんの豚の下敷きになったり、ろくでもない目に遭ってばかりです。それでも怒ったりせず、ただ淡々と自分の目的を遂行し終え、近くの公園でアイスクリームを買って食べようとしますが、ベンチに向かう途中で、アイスクリームが地面にぼたりと落ちてしまうのです。

その次の場面で、おじさんはベンチに座って、顔を覆って泣いています。「いろいろ ひどいめに あったけれど、おじさんは ずっと がまんしてきました。でも、こんどだけはー」このページを開くと、いつも胸が痛くなります。一つや二つの思い通りにならないことは抱えられます。三つや四つになると、苦しいけどこらえます。五つや六つになると、、、。絵本の中でおじさんは、さして気分を害した様子もなく、表情は変わりません。けれど、ずっとがまんしていたのです。自分を見失いたくなかったのです。アイスクリームを落とした瞬間の呆然とした表情には、おじさんのショックが伺えます。こればかりは庇いきれなかったのです。

おじさんが遭遇した災難は、他者による不可抗力のようなものばかりです。おじさんに何の責任もないのです。そんなときでも、おじさんは怒ったりしませんでした。しかし最後にアイスクリームを落としたのは、おじさんの不注意かもしれない。もちろんアイスクリーム屋さんの仕事に問題を見る向きもあるかもしれませんが、このおじさんはそんなクレーマーのような性格の人ではありません。最後の最後でおじさんが堪えきれなくなって泣き出したのは、自分までもがミスをして、自分に辛く当ってしまったと思ったからではないでしょうか。重ね重ねの災難よりも、安堵へ向かう心持ちを自分が遮ったことのほうが、おじさんにはきつかったのです。

先日、私はほとんど『へろへろおじさん』のような一日を過ごしました。日中、晴れた空を見て、「ああ、まるで『へろへろおじさん』だなあ」と思っていました。おじさんは最後で泣いたなあ。哀しかったんだなあって。夜、寝る前に散々な一日を想い出しながら『へろへろおじさん』を読みました。「こらえきれずに おじさんは、ベンチに すわって なきました。」この一行を読んだ瞬間、私もこらえきれませんでした。おじさんの気持ちが痛いぐらいわかるのです。あんなにボロボロ涙が出たのは、本当に久しぶりです。そのおかげで気持ちよく眠れました。ありがとうね、おじさん。

物語の最後で、おじさんには小さな幸福が訪れます。それは読んでのお楽しみに。私にはそれがまだ訪れていませんが(笑)、『へろへろおじさん』を見習って、思ったようにならなくても淡々と堪えて過ごしてみよう。そんなふうに思っています。

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by ekakimushi | 2016-02-12 13:33 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)
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