人気ブログランキング | 話題のタグを見る

964 <ポトゥアに深い眠りを>

昨年の夏にGALLER北野坂でお会いしたのが最後になってしまいました。神戸に住むポトゥア(インド式巻物紙芝居師)の東野健一さんが、この年始の6日にガンで亡くなられました。享受70歳でした。

確かあれはちょうど一年前のことだったと思う。東野さんからいつものように個展の案内状をいただいたのです。ああ、お元気に活動をされていらっしゃるんだなと、封を開ける前に勝手に思っていたのとは正反対の文面が入っていました。

「胃がんの手術のため入院をし、元気に退院できることと思っていましたが 結果としては残りの時間は6ヶ月と言う診断になり それはそれですっきりしたのですが みなさまには完全復帰を願っていただいたのですが!!人生最速のコースになってしまいました。」東野さんはそれから一年を生き、あの野太く大きな笑い声で、周囲の人々を魅了していたことと思います。

私は東野さんについて多くを語れるほどの付き合いはありません。30年近く前に初めてお会いしてから何度か、作品や舞台や言葉や態度で教わったと思っている者です。随分前ですが秋野亥左牟さんの個展を見に行った折に、ギャラリー番を東野さんがされていたことがあったのです。

そのときに二人で亥左牟さんの魅力を話し合ったことが、今も思い出されます。そしてギャラリーでお客さんを迎える東野さんの悠然とした構え。なんと素晴らしい接客姿勢だろうと感激をしたことがありました。今自分が個展をする時に、いつも真っ先に頭の中に浮かぶ理想像です。

東野さんのある個展に伺った際には、絵とポトゥアの両立について伺ったこともありました。元は絵描きの道に邁進するつもりで会社員を辞めたんだ。ポトゥアになるなんて考えもしなかったと、語っておられました。また作品の値付けについても独自の考えを持っておられ、「君の作品は値が安すぎる」と笑ってシビアに指摘をされたことがありました。

たった一回だけですが、同じ展覧会でご一緒させてもらったことがあります。そのときは亥左牟さんも参加されて、二人の姿を後ろから黙って拝見するだけでも、私にとっては大きな喜びでした。あの二人が話したり、絵を描いたりするのを見るなんて、何かしら不思議な光景でした。まだあのときは揃って元気だったのです。

昨年の夏にGALLER北野坂を訪れたとき、東野さんは床に絨毯を敷いて寝たままで、お客さんと話されていました。たぶん体が相当にしんどかったのです。ほんの少しだけ声をかけました。目を閉じて、それでもよく響く声で返してくれました。そして眠ったのです。

ポトゥアであることと、作家であることの狭間で、東野さんは表現者としての30年間を生きたのだと思う。そして自分が演じた宇宙へ、一人で帰っていかれたのでしょう。あの魅力的な笑顔を残して。

随分遅くなりました。ご冥福をお祈りいたします。

964 <ポトゥアに深い眠りを>_f0201561_12544436.jpg
 添付されている画像の無断転用・使用を禁止いたします。





















by ekakimushi | 2017-01-21 13:02 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)