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059 <ひとつ事>

ひとつ事しかできない人には、住みづらい世の中です。先日ある食堂で、いかにもの新米君が給仕をしており、注文は憶えきれないわ、食器は手早く片付けられないわ、レジはさっぱり出来ないわ、お客さんだけでなく店の人からも大声で罵倒されていて、見ていて辛い光景でした。たぶん、彼は一度に多くのことをこなすのが苦手なのです。


自慢ではないのですが、私もその新米君に負けないぐらいひとつ事のみで一杯いっぱいになる人です。交差点の真ん中で行き交う車を自由自在に流したり止めたりするように、一度に幾つもの作業を同時進行させられる人がいます。私から見たらとんでもない才能です。頭のどこにそれだけの部屋があるのか、整理はいつできるのか、見当もつきません。


そんな自分が哀れだとかは、そんなには思いません(時々がっかりはしますが…笑)。人それぞれの特性や持ち味が100%生かせる世の中であれば、誰も文句を言ったりしないし、見ていて辛い光景も現れたりしないでしょう。でもそんな世の中は今も昔も、世界のどこにもないのです。元々住みづらい世の中なのです。


そう知って私たちは学校へゆき、職につき、死んでゆくのです。あれもこれもはできない。ひとつの事しかできない。それでいいじゃないか。明日は少し良くなって、明後日はもう少し良くなるかもしれない。ひとつ事がちゃんとできなくて、どうして次へ行けるだろう。そう思って絵を描いていたら、いつまで経っても次へ行けない人になっていました。


新米君、がんばれ。
頭を上げて胸を張って。
ひとつひとつ憶えるんだ。
ひとつ事を、大切に。


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by ekakimushi | 2009-08-20 07:49 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)