151 <個展『ちょっとそこまで』(2006年)>
シーモアグラスが面白いのは、今このデジタルな時代に、口コミパワーによって認知を受けてきた事実だろう。店主Sさんがネット活動にさほど重きを置いていない人なので(笑)、噂が数少ない情報媒体であり、店に出入りする編集者さんらの間で、徐々にその存在が知られ広まってきた経緯がある。加えて当代随一の売れっ子作家、荒井良二さんが店舗イメージに大きく貢献していることも見逃せない。あくまでアナログ的な道筋を辿って成功した喫茶+絵本+雑貨+ギャラリーである。これであってますか、Sさん?
かような評判を人づてに聞き、一度シーモアグラスで個展をしてみたいと思った。ここで絵の展示をすることは、業界関係者の目に触れる可能性があるからだ。私としたら東京で初めて個展らしきことをするわけで、右も左もわからない土地で、いきなり大きく出るのも冒険だと思え、まずは小さくてもいいから東京へ出る一歩が欲しかった。最初にSさんにお会いした時、意地でも儲けてやるというスタンスからはほど遠い人柄に、私はいきなり和んでしまったのを憶えている。ああ、東京といっても、こういう人もいるんだと(笑)。
喫茶店の中なので、そう多くの作品展示ができず、必然的に小品展になった。タイトル『ちょっとそこまで』は仮想旅行を表したもので、主人公の後を追う形で旅が進行する連作形式の作品を7点、旅の小道具の絵を5点。たった12点だけの本当に小さな個展だった。今このときの作品を見ると、妙に感慨深い。東京ということで、ちょっとよそ行きを意識している。しかし結局地が出てしまって…そんな感じだ(笑)。やっぱり私は大根役者ならぬ大根絵描きだなあ。どうやっても、スマートなものは出て来ないのだなぁ。
東京には知り合いも少なく心配していたが、初日に勝手知ったる同業者さんや編集者さんが来てくれて飲み会をやってくれた。あれは本当にうれしかった!心細い想いが一遍に吹き飛んだ。ありがとう!!期間中はずっと在廊することができず、せっかく来て下さった方々にあまり逢うことができなかった。しかし各テーブルに用意したメモ帳に書いてもらった感想には痺れる内容が多くて、日程的に厳しくとも東京で個展をやった甲斐があったと思う。私の中で、少しだけ、東京が近くなった気がした。
そうか、そんなコンセプトで絵を描いていたのか。あの時は昔話とかばかりしていたので、気がつかなかった・・・