265 <音楽えかきむし〜イーグルスは飛ばなかった(中)>
ウォルシュはイーグルスに在籍しながらソロ活動もこなしており、解散後の充実した活動は最も眼を引く。2004年に再結成来日した際にサエキけんぞうは新聞コラムで、イーグルスに於けるジョー・ウォルシュの立ち位置はドリフターズにおける志村けんと同じであると説いた。ウォルシュが持ち込んだファンキーテイストがグループを活性化させたというのである。私が大きく頷いたことは言うまでもない。文句言いの私に唯一ターン・オンしたのはウォルシュだった理由がそこにあったからだ。ちなみにドリフでは荒井注が好きだったのだが。
25歳の時、私は思わぬ形でイーグルスを再評価することになった。その冬、悪質な風邪にかかった私は強烈な悪寒に悩まされていた。震えながらせめて耳から暖を取れれば、と思いついたのがイーグルス。寝込みながら聴く初期のサウンドは、私に絵に描いたようなカリフォルニア幻想を堪能させてくれた。ヤシの木と温暖な気候。明るい日差しに彩られた陽気なアメリカンライフ。40度近い熱を出し朦朧となった意識の中で「ああ、イーグルスって、いいもんだなあ」としみじみ思った。彼らに対する見方聴き方が変わったのはそれからだった。
簡単にいえば、最初の3枚のアルバムの良さを正当に評価するようになった。希望の星だったというCSN&Yが空中分解してゆく様を目の前で見ていたというイーグルスのメンバー達。穏やかなファーストアルバムやしんみりと聴かせるコンセプトアルバムの『ならず者』には、駆け出しだった彼らの失望感が感じられるし、ハードエッジな音が目立つようになった『オン・ザ・ボーダー』にさえゆとりが宿っている。この頃のイーグルスはまだ背負った荷物も軽かったのかもしれない。年一作ペースで落ち着いて活動する西海岸のローカルグループだったのだろう。
『You Can't〜』の内容と評価がズレていることは、ジョー・ウォルシュのキャリア最大の悲劇だと思う。『ホテ・カル』に巻き込まれた形で、正当な評価の時間が得られなかったのではないかという気がします。残念なことです。本人はそこそこ図太い神経をしてそうですけれど(笑)。