人気ブログランキング | 話題のタグを見る

265 <音楽えかきむし〜イーグルスは飛ばなかった(中)>

イーグルスのアルバムの中で図抜けて酷いのは79年『ロングラン』だ。前作から3年の時間を置いても曲が書けなかったのだろう。目的を達成して何かを得た後の脱力感や虚無感が感じられる作品である。結局この不毛なアルバムの後、しばしお茶を濁してイーグルスは解散した。ソロになったグレン・フライやドン・ヘンリーがいい仕事をしていい曲を書いているわけだから、解散は正解だったと思う。グループが大きくなり過ぎて邪魔になったのかもしれない。解散して一番気楽になったメンバーは案外ジョー・ウォルシュだったのではないだろうか。


ウォルシュはイーグルスに在籍しながらソロ活動もこなしており、解散後の充実した活動は最も眼を引く。2004年に再結成来日した際にサエキけんぞうは新聞コラムで、イーグルスに於けるジョー・ウォルシュの立ち位置はドリフターズにおける志村けんと同じであると説いた。ウォルシュが持ち込んだファンキーテイストがグループを活性化させたというのである。私が大きく頷いたことは言うまでもない。文句言いの私に唯一ターン・オンしたのはウォルシュだった理由がそこにあったからだ。ちなみにドリフでは荒井注が好きだったのだが。


25歳の時、私は思わぬ形でイーグルスを再評価することになった。その冬、悪質な風邪にかかった私は強烈な悪寒に悩まされていた。震えながらせめて耳から暖を取れれば、と思いついたのがイーグルス。寝込みながら聴く初期のサウンドは、私に絵に描いたようなカリフォルニア幻想を堪能させてくれた。ヤシの木と温暖な気候。明るい日差しに彩られた陽気なアメリカンライフ。40度近い熱を出し朦朧となった意識の中で「ああ、イーグルスって、いいもんだなあ」としみじみ思った。彼らに対する見方聴き方が変わったのはそれからだった。


簡単にいえば、最初の3枚のアルバムの良さを正当に評価するようになった。希望の星だったというCSN&Yが空中分解してゆく様を目の前で見ていたというイーグルスのメンバー達。穏やかなファーストアルバムやしんみりと聴かせるコンセプトアルバムの『ならず者』には、駆け出しだった彼らの失望感が感じられるし、ハードエッジな音が目立つようになった『オン・ザ・ボーダー』にさえゆとりが宿っている。この頃のイーグルスはまだ背負った荷物も軽かったのかもしれない。年一作ペースで落ち着いて活動する西海岸のローカルグループだったのだろう。


265 <音楽えかきむし〜イーグルスは飛ばなかった(中)>_f0201561_7425864.jpg
ロックのライブアルバムの中で、これほど素晴らしいベースプレイが聴けるものが他にあるだろうか(ベース担当はウイリー・ウィークス)。ジョー・ウォルシュの作品としても最高の一枚。ライブで鍛えられた男達の粘りとパワーとデリカシィ。知らない人も是非聴いてほしい76年の大傑作『You Can't Argue With A Sick Mind』。
by ekakimushi | 2010-10-18 07:45 | 音楽えかきむし | Trackback | Comments(8)
Commented by MICHIO at 2010-10-18 08:28 x
『ロングラン』の中で最も好きなのは、In the Cityですがね。ああ、これはジョー・ウォルシュの曲だったか。
Commented by ekakimushi at 2010-10-18 12:49
そうです、ウォルシュとバリー・デ・ヴォルゾンとかいう人の共作です。あと「サッド・カフェ」にも加わっているようですが、ウォルシュはソロのこともあって、曲を出し惜しみしたか?という気がします。ちょうどフェイセスの頃のロッドみたいなもので。
Commented by onthenodo at 2010-10-19 13:43
ジョー・ウォルシュのライヴ!!『Walk Away』最高です。ジェームス・ギャングの『Thirds』収録のものより数百倍カッコイイ!!!
Commented by ekakimushi at 2010-10-19 15:32
「Walk Away」のベースラインの感動的なこと。昔不覚にも感涙したことがありました。あくまでロックのベースであってソウルやファンクではないのですね。ウィリー・ウィークスはそこいらへんを本当によくわかって弾いてはるなと思いました。
Commented by onthenodo at 2010-10-19 20:46
『Walk Away』。この曲には10代の頃の思い出があります。1979年の8.8 Rock Day。関西アマチュアバンドの登竜門であり、また関西音楽シーンの夏祭りでもあったこのイベントが、なんとうちらの北播磨にやってきたんです。http://lmc.yamaha.co.jp/archive/rockday/79/index.html 初めて観る生のロック・フェス。高2の夏でした。ハリウッドボウルに似せた野外ステージの開放感。ゲストも後から思えば豪華で、憂歌団やら山岸潤史やら…石田長生に大上留利子もいました。ちなみに審査員には小倉エージとか渋谷陽一…。その大会のレディース部門でグランプリをとったLake Shore Driveというバンドが、『Walk Away』を演っていたんです。70年代最後の夏の青空に、あのギターリフが鳴り響き、精一杯気張って唄っていたヴォーカル、そんでベースのお姉さんが腰を揺らしながら、必死にリズムキープしていた姿なんて今でも瞼に浮かびます。
Commented by onthenodo at 2010-10-19 20:46
あの演奏のオリジナルを探して、それをジョー・ウォルシュのライヴで聴けた時の感激といったら!先程YouTubeでイーグルスの1977年のライヴでの演奏を見つけましたが、ああ、ランディのプレイをもってしても、あのドライヴ感は出せないのだなぁ、と思い知りました。これはもぅ、ロックファン必聴の名演ですね。
Commented by onthenodo at 2010-10-19 22:44
それはそうと今日、雨が降らないカリフォルニアの青い空日和に乾いたハタケで農作業しながらぼんやりと、イーグルスの面々をドリンクになぞらえてみたら、などとしょーもない思考を巡らせていました。グレン・フライが陽光の下育ったオレンジ天然果汁100%ジュースとすれば、ドン・ヘンリーは縁側で渋くシミジミ呑む加藤茶、とは似ても似つかぬ、昆布茶。ランディ・マイズナーはバンドのバランス維持に欠かせないスポーツ飲料。ほんでジョー・ウォルシュはといえば、このオッサン、どうみてもアルコール臭がプンプン漂います。それぞれに味わいがあるけど、元来の爽やかな柑橘系の味を甘々にしちまった人工甘味料ティモシー・シュミットだけはいただけまへんワ、という事で…ちゃんちゃん。
Commented by ekakimushi at 2010-10-19 22:45
8.8ですか!なんと懐かしい!ゲストも今一度みたい人達ばかりですが、Lake Shore Driveなるバンドの「Walk Away」、今となってはまぼろしのようなものですが、ちゃんとonthenodoさんの記憶に残っているのですね。音楽の出会いの幸福のひとつですよ、これは。

『You Can't〜』の内容と評価がズレていることは、ジョー・ウォルシュのキャリア最大の悲劇だと思う。『ホテ・カル』に巻き込まれた形で、正当な評価の時間が得られなかったのではないかという気がします。残念なことです。本人はそこそこ図太い神経をしてそうですけれど(笑)。