274 <下町商店街>
商店街は偉そうでないのが良い。偉そうな商店街の偉そうな店は、歴史があって、テレビで紹介されて、一目置かれていると店主が勘違いしていて、商店街の組合の会合でもやっぱり偉そうで、近所に商売敵が現れると最初は浮かぬ顔をして見ているだけなのに、そのうち急に弱気になって仲間を頼ったりして。偉そうでない商店街の偉そうでない店は、歴史やテレビや勘違いに惑わされていないのが良い。店先の応対や広告の言葉に張りがあって良い。自分の足で立って自分から動いてやってくるのが良い。
商店街はたまに行くのが良い。流行っている商店街の真ん中で生まれた人は、よその街の寂れた商店街を見ると心が痛むから、シャッター通りの中にポツンと開いている揚げ物屋のおばあさんを見たら辛い気持ちになるから、商店街とベッタリ一緒に暮らさずに、たまに行くぐらいが良い。たまに行って、たまに八百屋のオヤジの顔を見て、たまに散髪屋で髪を切ってもらって、たまに喫茶店に寄って家で飲むよりもまずいコーヒーをわざわざ注文するのが良い。
下町にしかない商店街が良い。その町にしかない商店街が良い。気になる人のお店のある商店街が良い。雨が降っても出かけたくなる商店街が良い。年末には無理して張り切ってお正月はすっかり気配がなくなって、1月5日ぐらいからは普通にやっている商店街が良い。草履を履いた私を美味しい匂いのする方へ引っぱっていってくれる商店街が良い。通りを歩いて品を見て回っただけで、今日は一日楽しくやれたなという気になれる商店街が良い。喧噪の中へ自分が埋もれてゆく後ろ姿を絵に描きたくなる商店街が良い。