355 <私のお気に入り:『プンク マインチャ』(中)>
この作品が描かれる前に亥左牟さんは、ネパールのカトマンズに住むネワール族と交流を持ち、その生活が遺憾なく絵に盛り込まれています。扉ページを開けた瞬間、ひんやりしたヒマラヤの空気を感じ、どこからかお香の薫りがしてきます。読み進むとどのページにもチベットの密教画のようなニョロニョロした線が毒蛇のようにおどろおどろしく、密かな性感帯のように官能的で、洞窟の反響音のように延々と続くのです。見る者はその美しいうねりに巻き込まれるのです。
日本画の顔料で描かれているにもかかわらず、物語の舞台やテーマに何のズレも感じさせないのは、双方が伝統的であり、土着的であるからです。顔料の効果で表現された絵肌の美しさには、心底酔ってしまう。13年前に初めて原画を拝見したときに、何十メートルも離れたところから私を呼んで感応させたあの絵肌。周囲など目に入らず、走り寄って間近で見た。後頭部はズキズキ、涙はボロボロ、ため息スーハー。私はきっと絵に深酔いしていたのです。