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378 <1945 保戸島の夏>

66年前の今日、1945年7月25日に大分県の豊後水道にある保戸島で悲惨な出来事がありました。


終戦の20日前にアメリカ軍機グラマンによって保戸島国民学校が爆撃され、125人の子供たちが犠牲となりました。「なぜ学校が爆撃されたのか」。筆者の坂井ひろ子さんは学校の爆撃を知り、当時の在校生や保護者、先生を丹念に訪ね聞き歩くうちに、「保戸島国民学校で先生をしていた人が、戦後六十年余も毎年欠かさず慰霊祭にきてくれている」ことを知ります。その人が本作『1945 保戸島の夏』の主人公です。物語は彼が新任教師として船で島へ赴任してくる場面から幕を開けます。


爆撃シーンについて、筆者は殊更多くのページを割かずに、むしろ新任教師と子どもたちとの生き生きとふれあう姿や、軍国主義に対する主人公の葛藤に重きを置いて、物語を展開させてゆきます。文章力や構成力だけでなく、粘り強い取材力も感じさせる骨太の作品『1945 保戸島の夏』、御縁を授かって今回表紙絵を描かせてもらいました。時間的なこともあって表紙周りだけだったのですが、本当は本文中の絵も描きたかったくらい物語に引き込まれました。


戦争を語れる世代が少なくなっている今、埋もれた題材を拾い出し、過去の出来事に光を当てた作品を世に出されている坂井さんの仕事はもっと評価されるべきです。亡くなった祖母が昨日のように戦時中の苦しさを語っていたこと。今なお戦争に巻き込まれた幼少時代について苦々しく語る両親の心中。いろんな想いが去来しました。アメリカ軍がとった非人間的な攻撃、国民を圧殺することでしか虚勢を張れなかった一部の日本軍人。66年前、保戸島への空爆が奪ったものの大きさについて、この一冊は深く深く問いかけています。『1945 保戸島の夏』、是非読んでみて下さい。

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by ekakimushi | 2011-07-25 07:44 | 野次争論 | Trackback | Comments(0)