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448 <エレクトリックでライトなオーケストラ(下)>

ELOの音楽は、口当たりがよく差し障りのないポップスではあっても、壮大な映像を喚起するバラード、装飾を施した3コードのR&R、案外シンプルなのが多いミディアムと、手を替え品を替え聴き手を飽きさせません。その活動暦や歌詞内容に個の主義主張を滲ませるところがまずないので、硬派なロックファンからは軟弱と疎んじられることが多かったのですが、時を経て残ったものはやっぱり作品でした。70年代当時の洋楽シーンに多かったくだらないアジテーションやうるさいだけのアフォリズム、自慰行為にも似た楽器演奏などは、ほとんどが風化しました。音楽そのものに実体がなかったからでしょう。曲の良さのみで勝負をしてきたジェフ・リンは実に潔かったのでした。

よく言われるようにELOの音楽性は後期ビートルズに大きく影響を受けています。加えて活動初期のバンド、ザ・ムーヴで出会ったロイ・ウッドの存在が大きかった。良質のポップソングを書く腕前だけなら、ウッドはジェフに劣らない才能を持っていたと思います。ELOの1stアルバムを出した後で袂を分けた二人はそれぞれの音楽道を歩んで、少なくとも作品の量と質において大きな差が生まれたわけです。ジェフ・リンが作る曲、施すアレンジには、職人的ではあってもマニアックすぎる偏執狂の世界観は一向に顔を覗かせません(たぶん実際はかなりディープな音楽趣味があると思われますが)。そこがウッドと最も違う点だったと思います。

曲も唄も演奏もアレンジもELO流の美意識で貫かれて、これが実にバランスが良いのです。ELOやプロデューサーで売れていた時期のジェフ・リンの仕事は、同時期のビージーズ(特にバリー・ギブ)の才覚と仕事内容によく似ています(ファルセットの美しさが力強い点も!)。この二人はコケる時もよく似ていて、他人をプロデュースしてもELOやビージーズのオケやハモリで唄っているだけのようになってしまう(笑)。それだけ作るサウンドの色が明確なのです。十代の頃に「テレフォン・ライン」を初聴きで一耳惚れしてしまったのは、ジェフが意図した売れるサウンド作りやおもちゃ箱感覚の楽しさに、私がまんまとハメられたということなのでしょう。では最後にマイ・フェイヴァリット・ELOソングス10曲を。順位は関係なくて、甘くて渋いのばっかり!

1.  ワン・サマー・ドリーム
2.  ロンドン行き最終列車
3.  ラレドの嵐
4.  国境の彼方
5.  ウィスパー・インザ・ナイト
6.  マンマ
7.  哀愁のロッカリア
8.  21世紀の男
9.  ヘヴン・オンリー・ノウズ
10. 北緯88度

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立ち姿もぎこちないスター性に欠けたバンドである。78年の日本公演では、ジェフ・リンが映画監督の大林宣彦そっくりで笑いを呼んだ。ステージでは大型の宇宙船が登場し、レーザー光線が話題になったが、ただそれだけで肝心の演奏はさっぱり評判がたたず、おそらくライブをやりたかったのはジェフ・リン以外の人たちだったのだろう。
by ekakimushi | 2012-01-27 07:49 | 音楽えかきむし | Trackback | Comments(0)