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489 <憧れのベイ・エイリア (中)>

地図でベイ・エイリアを拾ってみると、外海に面した二つの半島がちょうど門のように閉じてサンフランシスコ湾を形成している。その湾の周囲をぐるりといろんな街が取り囲んでベイ・エイリアとなっている。歌のタイトルや歌詞によく出ている街が多いので、地図を眺めているだけで鼻歌がいくらでも唄える。サンフランシスコ、サンノゼ、オークランド、サクラメント、バークレーなど、行ったこともないのに馴染みの街のような錯覚に陥ってしまう。いったい私は誰に教わったのだろうか?

それはたぶんクリント・イーストウッドが主演した映画『ダーティ・ハリー』に違いない。車を飛ばし44マグナムをぶっ放すイーストウッドには最高に痺れたが、それ以上に街の映像にガツン!とやられた覚えがある。こんな坂の多い不便な、しかし極めて美しいところがあるんだと憧れを持った。その数年後に決定打となったのがボズ・スキャッグス76年の快作『シルク・ディグリーズ』で、最高にシスコっぽいアルバムだった。あれでロンドンもN.Y.もL.A.も、もうどうでもよくなった(笑)。当時シスコの伊達男と称されたボズが、実はテキサス出身だったとは知る由もなかったが。

『シルク・ディグリーズ』には『ダーティ・ハリー』で見た街並みを感じさせる曲・アレンジが詰まっていた。海を見下ろす小高い丘、対岸の夜景、陽光溢れるハイウェイ、そして金門橋。ポップでオシャレ、適度に黒っぽい。私がボズから感じたベイ・エイリア感覚は意外に的中していた。フラワー・ムーヴメントの発信地となったサンフランシスコ、戦前から多くの黒人が居住し、音楽的なブラックネス・フィーリングが横溢するオークランド、今やシリコンバレーの中心地で、やらかす事がいちいち自由で小回りが利くサンノゼなどなど。

これで味をしめた私は、その後ボズを追っかけた。おもしろいことに、『シルク・ディグリーズ』で爆発的に売れるまでも、彼は必ずと言っていいほどアルバムに一曲は最高のベイ・エイリア・バラードを盛り込んでいた。それは彼が同郷のスティーヴ・ミラーと組んだ1968年に既に登場している要素である(「ベイビーズ・コーリング・ホーム」!)。その後袂を分けた二人が、同じ1976年にベイ・エイリアを舞台にして、それぞれ『鷲の爪』と『シルク〜』でシーンの最前線に浮上してきたのは奇遇どころではない気がするのだが。

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ボズがバカ売れする2年前の大傑作。プロデューサーにジョニー・ブリストルを迎え、熟れた果実の如き芳醇な味わいを醸し出す。晩年のジェームズ・ジェマーソンも参加。トゥーサンの渋いミディアム・ファンクのカバーもナイス。もちろん絶品ベイ・エイリア・バラードも満載で、気分は今夜もロウソク&ワインか?
by ekakimushi | 2012-05-17 20:35 | 音楽えかきむし | Trackback | Comments(0)