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499 <あるダミー本>

先日ある作家さんの絵本のダミー本を見せていただく機会がありました。ダミー本というのは本の体裁で読んだり見たりできるように整えられたラフ描きのこと。主に売り込みをする際に、この体裁で提示します。(もちろん完成度は人によって違いますが、絵本としての読み取りが可能なものであれば良いのです。)

そのダミー本は既に完成されたもので、ラフというよりは市販本と言った方が良い出来でした。美しく製本もされていましたし、ネーム(文章)はしっかり印字されていました。絵も本番用といってよい仕上がり。見る人によっては、店頭に並んでいてもおかしくないと思うかもしれません。

そして内容。巷で蔓延している甘ちゃん風味がほぼ皆無の作品で、塩っ辛い印象。読者に寄り添わない淡々とした物語の展開と、時に首筋をなめられるような奥深い表情や風景の画風。文章・絵ともに、少なくとも今流行とも売れ線とも思えない。しかし何かが残る。触れられたくところを軽く撫でられたような読後感。

特に絵がキテいました。カラーコピーで製本されているため、原画を拝見したわけではないのですが、おそらくあんなものではないでしょう。画力という言葉がありますが、まさに見るものを画面に引っ張り込んでしまう力がありました。その理由はテクニックと情念が無理なく同居しているところから来ていると思う。

このダミー本がこの後どういう経緯を辿るのかはわかりませんが、子ども主体の読者向けに商業出版される可能性は少ないと思う。理由としては、文作家も画家も読者に媚びないスタンスを貫き通しているからです。それが絵本を売る業界側の理屈からすれば無愛想で、売れ筋外の絵本と受け取られる可能性があると考えます。

わかりやすい絵本、読み聞かせしてウケやすい絵本、人気絵本の続編もの。本屋さんの絵本棚を席巻する売れ線の絵本は、そのセールスポイントで本を開く前から読者を引きつけているものばかり。強力なハードヒッター絵本であるが故に、読者の能動的な咀嚼・消化能力を失わせるような事前準備を施したものも多いと私は思います。

そんな気が利き過ぎるような品が多く揃った本棚へ、あのダミー本が割って入る余地があるだろうか。
私が不安に思うのはいったい何なんだろうか。
もう少し考えてみようと思います。

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by ekakimushi | 2012-06-11 07:54 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)
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