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735 <ひとつ事>*

ひとつ事しかできない人には、住みづらい世の中です。先日ある食堂で、いかにも新米風の男子が給仕をしており、注文は憶えきれないわ、食器は手早く片付けられないわ、レジはさっぱり出来ないわ、お客さんだけでなく店の人からも大声で罵倒されていて、見ていて辛い光景でした。彼は慣れていないだけでなく、一度に多くのことをこなすのが苦手そうだったのです。


自慢ではないのですが、私もその新米君に負けないぐらい、ひとつ事のみで一杯いっぱいになる人です。交差点の真ん中で行き交う車を自由自在に流したり止めたりするように、一度に幾つもの作業を同時進行させられる人がいますが、私から見たらとんでもない才能です。頭のどこにそれだけの部屋があるのか、整理はいつできるのか、混濁したりしないのか、さっぱり見当もつきません。


そんな自分を哀れだとか、そういうふうには思いません(時々がっかりはしていますが…笑)。人それぞれの特性や持ち味が100%生かせる世の中であれば、誰も文句を言ったりしないし、見ていて辛い光景も現れたりしないでしょう。でもそんな世の中はおそらく今も昔も、世界のどこにもないのでしょう。元々住みづらいのが世の中なのです。


そう知って私たちは学校へゆき、職につき、死んでゆくのでしょう。あれもこれもはできない。ひとつの事しかできない。それでいいじゃないか。明日は少し良くなって、明後日はもう少し良くなるかもしれない。ひとつ事がちゃんとできなくて、どうして次へ行けるだろう。そう思って絵を描いていたら、いつまで経っても次へ行けない人になっていました。


新米君、がんばれ。
頭を上げて胸を張って。
ひとつひとつ憶えるんだ。
ひとつ事を、大切に。

(*日記No.0059 2009年8月20日掲載のリメイクです。)


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by ekakimushi | 2014-08-21 13:49 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)