808 <ホックニーの熱い手>*

先日本棚を整理していたら、昔行った展覧会の図録が出てきました。タイトルは『ホックニーのオペラ』。1993年に当時の兵庫県立近代美術館、今の原田の森ギャラリー(かつての西館は、今は横尾忠則現代美術館)へ見に行ったようです。ポップ・アート・シーンの重要人物が手がけたオペラの舞台美術とその過程。図録でありながら一目でデイヴィッド・ホックニーとわかる筆の走り、ペンのエッジ。実に生々しい。その頃私が勤めていた会社の部署は土曜日出勤が必須だったため、ウィークデイに代休を取ることになっていました。そうそう、確かこのときは、金曜日に休みを取って行ったんだ…


1995年の阪神・淡路大震災で直撃を受け、現在の神戸市中央区脇浜海岸通に新築されるまでは、灘区原田通にあった兵庫県立美術館。村野藤吾が手がけた最初の美術館として名高く、すぐ近くの原田の森という記念碑は、かつて関西学院大学があった場所です(ということを在学中に授業で教わりました。わざわざここまでやってきて!)。地震による被害のせいか、中のパーテーションなどは以前とは変わったようです。本館を入るとなだらかな長いスロープがあって、ゆっくり上ってゆく途中から気分が盛り上がったものでした。


その金曜日。一日を有効に使おうと、朝一番に駆けつけて、チケットを買って入った場内には、人は誰もいなかった。薄暗いスロープを一人上って行くと、前から三人の人がやってきました。「もう観て回ったきたのかな、えらく早いな」などと思って見ると、内二人は日本人、残るもう一人は、、あっ、ホックニーだ…間違いない、デイヴィッド・ホックニー本人だ。うわっ、なんか、でっかいエルトン・ジョンみたいだな。たぶん翌日講演があったのだと思います。その下調べや打ち合わせで、開場前の早い時間に来ていたのでしょう。何やら英語で話しながら、ホックニーが近づいてくるのです!さあ、どうする!


いくら私以外に誰もいないといっても、通訳さんとマネージャーさんらしき人がいたので、これは割って入るなんて難しいかなと思って横を通り過ぎようとした時、ホックニーがニコニコして話しかけてきました。「早いな、今から展示を見るのか?」そんな内容だったと思う。「イエス。あなたのことは昔から画集でよく知っている。」などと返答して握手を求めました。すると突然「本当か?」と言いながら、満面の笑みをたたえながら、両手で私の右手をさするように握るホックニー。えっ、顔の距離が異様に近い。あっ…そうか…この人って…


その時、ホックニーに男色の気があるという話しを思い出しました。そういう話しに疎いせいで、未だに本当のところを知らないのですが、表情や仕草はその傾向大アリでした。今思えばデュフィやマチスの影響をどう考えているのか、それぐらい聞く事ができたのに、惜しい事をしたものです。しかし本物のホックニーの、やたら熱っぽい両手で、私の手が隠れるぐらいに握られたままの状態で、一体何が聞けたでしょう。図録を前にすると、今もあの熱い手のひらの感触が忘れられません。デイヴィッド・ホックニー、いや~、単なる危ないおっさんでしたわ(笑)。

(*日記No.0191 2010年5月23掲載のリメイクです。)    

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by ekakimushi | 2015-05-09 14:54 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)
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