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832  <マイ・モータウン・ラプソディ(上)>

去年の夏、アメリカのミシガン州デトロイトが財政破綻した。私が小学校の頃、家にあった百科事典には、デトロイトは世界の自動車産業の都であり、米国の工業力のシンボルだと書かれていた。破産した折にリック・スナイダー・ミシガン州知事は「60年にわたる衰退を食い止めるときが来た」と語った。60年前と言えば、1950年代半ば。デトロイトの人口は180万人(1950年の統計)を数え、自動車産業が多くの労働人口を受け入れており、米国有数の大都市だった頃のことだ。要するにこの街は60年間衰退し続けて、2014年7月18日に息の根が止まったのだ。市は連邦破産法9条の適用を申請した。負債総額はおよそ180億ドル(約1兆8000億円)。米国の自治体としては史上最大規模の財政破綻だった。
 

このニュースを知ったとき、レコード会社のモータウンのことを思い出した人は多かったのではないだろうか。モータウン社は1971年にL.A.に移転するまではデトロイトに本社があり、数多くのタレントや裏方の雇用を作り出していた。社名がモーター・タウンを語源としていることや、社長だったベリー・ゴーディ・ジュニアが若い頃に、実際にG.M.の下請けで働いていたことなど、モータウンとデトロイトには浅からぬ関係がある。何より音楽や自動車といった若いアメリカの夢を売りにした産業を育む土地柄が、デトロイトにはあったのだろう(それと同じだけの繁栄の闇も)。市が破綻したことで、モータウンが栄華を極めた1960年代は、一層人々の間で美しく語られたことだろう。


モータウンは今も実在する企業だが、大手のエンタテイメント・カンパニーの傘下に入っている子会社の一つでしかない。音楽ファンにとっては、1960年代~70年代のソウルミュージックを連想させる。1961年生まれの私が、1960年代の黒人音楽を知るはずもなく、モータウンという個性の企業を知ったのは1974〜5年のことで、その時分にはモータウンは極普通のレコード会社の印象だった。黒人経営による会社といっても、60年代のような特徴的なモータウンサウンドといったものは70年代には失われており、マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーといった個々のタレントが独自の音楽を作っている、その発売元といった感じだった。

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デトロイトのとある倉庫。こんなのに似た建物を、日本全国で見ることが出来る。無頓着に建てられて、無責任に捨て去られて。そのうち普通の一軒家で、この手の幽霊屋敷がごまんと出現するだろう。人口の減少とは、廃墟の増加と同義語だ。
by ekakimushi | 2015-08-07 12:15 | 音楽えかきむし | Trackback | Comments(0)