894 <『焼き肉を食べる前に。』(2/4)>

2005年に解放出版社さんから『きみの家にも牛がいる』(以後『きみ牛』)という絵本が出版されました。私はこの本で絵を担当したのですが、取材で初めて屠畜場見学をさせてもらいました。最初に牛が銃で撃たれ気絶して、ゴロッと転げ落ちてくるのを見た瞬間、ショックというよりも、何か躁状態になったのを憶えています。体の中で血が湧き立つ感じがしました。「今私はこれまでの人生で、見ることのなかった場面を目の当たりにしているんだ」そんな言葉を言い聞かせる自分がいました。


その後何度か見学に参加させてもらいましたが、絵の作業は簡単ではなかったことをよく憶えています。そして私以上に、文章を担当された小森香折さんは、多くを考えられたことと推測します。まだ十年程前ですが、それほど食育が盛んに叫ばれていたとは思えなかったですし、なにしろ児童書の分野で屠畜をメインで扱った本は、おそらく出版されていなかったと思う。そういった状況を考えると、「お肉はひとの手によって作らるものなんだ」という『きみ牛』を貫く主題は、もっと評価をされるべきで、このメッセージを紡ぎ出した小森香折さんの功績は大きいと思う。


一方で、私(とおそらく小森さんも)は、『きみ牛』だけではまだまだ語れていない部分があって、その仕事をやり残した気がしていました。私がずっと思っていたのは、実際に牛や豚を絶命させ、食肉へと加工する職人さんたちの、心の声に耳を傾けるべきではないのか?ということでした。というのも、『きみ牛』以降に発売され評判をとった屠畜本は、どうしても書き手の思い込みに偏った屠畜観に染められたものや、情緒に流された内容のものが多過ぎた。現場で働く人にしてみたら、自分たちの職業観や現実感、日々の作業のメンタリティといったものにまでは、到底届いていないものばかりだったのではないでしょうか。


今回『焼き肉を食べる前に。』を作るにあたっては、インタビュー形式でしかできない肉声表現にこだわりたかった。その点を説明してインタビューに臨むと、作業者のみなさんは私の意を解して下さり、実に饒舌に、忌憚なく、真摯に、力強く、普段通りに、時に脱線しながら(笑)、思うところを語ってくれました。うれしかった。みなさんの熱い言葉がなかったら、とても128ページも埋めることはできませんでした。本当にありがとうございました。感謝いたします。またページ数の都合で掲載できなかった方には、この場を借りてお詫び申し上げます。誠に申し訳ありませんでした。


『焼き肉を食べる前に。』のあとがき(エピローグ)にも書いていますが、私が伝えたかったのは、現場で働く人の生身の声であって、筆者たる私の思い込みではありません。主役は、ナイフを握って、肉と向き合うみなさんです。明日のお肉を作っている食肉職人のあなたです。

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by ekakimushi | 2016-04-19 10:32 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)
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