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895 <『焼き肉を食べる前に。』(3/4)>

新刊本『焼き肉を食べる前に。』(解放出版社)は本日発売になります。書店に出ているところもあれば、一向に見かけないところもあると思いますが、ネット上では既に販売されています。書名と著者名(→中川洋典でございます)で検索いただければ出てきますので、どうぞよろしくお願いいたします。ささやかでも宣伝になれば、と思って書いております当ブログ恒例の新刊特集4回連続シリーズ、今日が3回目です。本日はこの本の編集者、綱美恵さんについて書いてみたいと思います。

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綱美恵さんは今、フリーの編集者とキッチン・ベイ( http://www.kitchen-bay.com )という洋風居酒屋の店主、この二足のわらじを履いて活躍をされています。昨年3月末に、解放出版社を定年1年前で早期退職されたときには驚きました。まだ『焼き肉を食べる前に。』が制作途中だったこともあって。しかしそれ以上に、洋風居酒屋への転身が、あまりにも編集の仕事からかけ離れていたことに面食らいました。時間が経つに連れて、それも綱さんらしく思えてきたけれど(笑)。いずれにしても、綱さんは徐々に編集者としてはフェイドアウトされるわけで、私としてはこれがご一緒できる最後の本だと思って、内心覚悟を決めたわけです。


綱さんとは、私がまだ会社に勤めていた頃からの付き合いです。たぶん1997~8年ぐらいからじゃないだろうか。2000年に個展にいらして下さり、学習絵本のシリーズを企画しているからやってみないかと打診を受けました。会社員だったにもかかわらず食いついた私は、その後綱さんと一緒に10冊の本を作ることになりました。やっぱり最初の学習絵本『太鼓』が一番印象深いです。本音を言うと、あんなにキツかった仕事はその後ないです。あの酷使に耐えられたのだから、絵描きとしてどんな仕事でもできるんじゃないかと思いました。今同じことをやれと言われたら、きっとカンカンになって怒るでしょうね(笑)。


ターニングポイントは、やはり2005年の『きみ牛』でした。この本が発売から11年経って、今も細々とではありますが生き残っていることを思えば、2003年の時点で児童書分野においてこの企画を通した綱さんの、編集者としての慧眼には頭が下がる思いです。というのも、その後たくさん出版された屠畜(食育)本は、言ってみれば、綱さんのアイデアを拝借したものが実に多いと私は思っているからです。そのことを綱さん本人に話すと、なんともっと前の1993~4年にはもう発想があったそうです。世の中の認識が追いつくには、綱さんが早過ぎたのでしょう。
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『きみ牛』の後のフォロー本として、高学年〜ヤングアダルト向けの読物を書かないか?そんな打診を受けたのが2011年3月。あの東日本大震災の一週間後でした。よく憶えています。少々の算段は胸の内にあったので、その場でやりますと答えたものの、出版までに5年もかかっては遅過ぎますよね。本当はもっと早く作るべきでした。できれば3年早く出したかった。そうすれば、もっと綱さんと全力でぶつかり合えたのに。といっても、もう時間は過ぎ去ったのだし、本は出来上がったわけです。兼業編集者としての綱さんから、ほんの少し肩の荷を降ろしてあげられたのかもしれないのだから、良しとしましょうか。


『焼き肉を食べる前に。』は、私が綱さんと作った最後の本です。ようやくお終いです。でも寂しい気持ちなんか、全然ない。充分にやりました。随分我が儘も言いましたが、負けないぐらい聞かされました。何度も怒られましたが、私が心底怒ったのは(たぶん)一回だけです。取材でいろんなところへ行って、いろんな人に出会って、よく叱られ、抱えきれないぐらい教えてもらいました。本当に楽しかった。今想い出すと、全部夢の出来事のようです。綱さんと一緒でなかったら、たぶん私にはできなかった仕事ばかりです。長い間本当にありがとうございました。


私が船だったとしたら、私を海へ出してくれたのは綱さんです。綱さんがいなかったら、私は今も陸の上から海を眺めていると思う。船は海へ出ないと、海へ出たら、今度は外海へ出てゆかないと。


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この本からもう15年も経ったのか…昼間は会社で働き、夜はこの本の絵を描く。あの二重生活は、半端でなくホンマにキツかった。身の危険を感じた仕事は、後にも先にもこのときだけである。                                                                                                                                                                                                                                          
by ekakimushi | 2016-04-20 09:08 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)