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996 <今宵『サムシング・エルス・バイ・キンクス』を>

『サムシング・エルス・バイ・キンクス』が名盤紹介本に取り上げられているのを、私はたぶん見たことがないと思う。パイ時代なら次作『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』か、その次の『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡』が、RCA時代なら『マスウェル・ヒルビリーズ』が、アリスタ時代なら『ステイト・オブ・コンフュージョン』が、ロンドン時代なら『UKジャイヴ』が傑作として挙げられることが多いキンクス。『サムシング~』はあくまでも、私的名盤止まりなのか?そうは思わないのですが。


『サムシング~』は今から50年前の1967年発表です。ビートルズの『サージェント・ペパーズ~』が発売になったり、ドアーズやヴァニラ・ファッジがデビューした年で、誰もが一服やって、金門橋へサイケなトリップを試みていた時代です。キンクスのリーダー、レイ・デイヴィスがおもしろいのは、流行りでそれがヒップなことであっても、その気がなければ全く無視して世間様と同調するそぶりも見せないところです。しかし、彼によくよくつきあってみると、しっかり浮き世を見てアンテナを立てている、情報通の文句言いに違いないのです。だからおもしろいのです。


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出だしは「デイヴィッド・ワッツ」。ジャムのカヴァーばかりが有名ですが、汗をかかないどこか冷ややかなビートナンバー。デイヴィッド・ワッツというのは、おそらくいいい家柄の子なのでしょう。<ファファファファーファ>というコーラスは、レイのデイヴィッド・ワッツに対する憧れをため息で表現しているのだと思う。イギリスでヒットした「デス・オブ・ア・クラウン」はデイヴ・デイヴィスがリードヴォーカル。夢見心地感いっぱいの曲で、フラワー・ムーヴィメントのテイストを意識したのでは。「トゥ・シスター」もメランコリックなメロディで、終わり際のキャズーの音色に流行への色気を感じる私です。


「ノー・リターン」はボサノバ。アントニオ・カルロス・ジョビンというより、ピエール・バルー風。もしかしたら、前年大ヒットした映画『男と女』のサントラからヒントを得たか?どこかコミカルで東欧香に満ちたメロディの『ハリー・ラグ』は、デキシーランド調をレイ・デイヴィスの裏必殺技ツー・ビートに置き換えたような作品。続く「ティン・ソルジャー」って、スモール・フェイセスにも同名異曲がなかったっけ?ブラスをヴォーカルに裏合わせしてビートを強調しています。


旧A面ラストの「シテゥエイション・ヴェイカント」は前作『フェイス・トゥ・フェイス』の残りものではないかと推測。景気の悪い歌詞に最高の毒が盛られていて、個人的に滅茶苦茶好きな一曲です。根拠はないのですが、1961年にアメリカで大ヒットした「マザー・イン・ロウ」の猛毒歌詞にヒントを得たのではないでしょうか。かように遊ばせてくれるこのアルバムを、私は心底愛しています。何度引っ越しをしても必ず連れて暮らしています。理由はただひとつ、この塩ビニの溝には、私を安らかにさせてくれる慰めが記されているからです。


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『サムシング・エルス・バイ・キンクス』を何回か聴いてみて、いつも音の良さに感心しています。私が持っているのはアメリカ盤(リプリーズ)のアナログレコードですが、奥行きのある時代モンのエコーが適度に効いていて、和む和む。CDでは楽器間にスカスカの隙間あったり、重低音や高音に無神経な強調があったりで、少々攻撃的過ぎるのでは?と思うこともあります。『サムシング~』がお気に入りの理由のひとつに、持っているレコードの音質も関与しているのは間違いないところです。

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B面はデイヴ・デイヴィスの「ラヴ・ミー・ティル・ザ・サン・シャインズ」でスタート。同面には4曲目にもデイヴの「ファニー・フェイス」が収録されています。「デス・オブ・ア・クラウン」が全英3位のヒットになったのを機会に、当時デイヴには独立~ソロの話がマネージャー先行で持ち上がっていたそうです。結局計画は頓挫し、ソロアルバム収録予定だったこの3曲が『サムシング~』収めとなったわけです。後に発売された幻のソロアルバムのタイトルは『ジ・アルバム・ザット・ネヴァー・ウォズ(アルバムにならなかったアルバム!)』キツいシャレです(笑)。


アルバム中最大の問題昨は「レイジー・オールド・サン」。もろにシド・バレット在籍時のピンク・フロイド!発売時期も近く、どちらが先かは定かではないものの、わずか3分程度の中で曲の展開が恐ろしくプログレッシヴです。レイ・デイヴィスの才気が漲った一品だと思います。かと思えば次に出て来るのが「アフタヌーン・ティー」。純正英国調ほのぼの趣味満開でガクッときます(笑)。デイヴの「ファニー・フェイス」の後にはこれまた微妙な「エンド・オブ・ザ・シーズン」。フランク・シナトラやアンディ・ウィリアムスら、当時の売れっ子クルーナー歌手を意識したか。鼻声歌手のレイにしてみたら、ヴォーカル・スタイルを真似易い人達なわけですな。


しかし「エンド~」の曲自体はちょいサイケ風で、小鳥の鳴き声がコラージュされていて、SE好きの趣味も前作『フェイス・トゥ・フェイス』ほど直接的でないのがグッドです。そしてアルバムラストは、今もキンクスの名曲中の名曲と誉れも高い「ウォータール・サンセット」。当時流行のご当地ソングですが、さすが偏屈者のレイ・デイヴィスらしく、テムズ河沿いの病院に入院した時に見た景色の美しさを唄っています。私のローカル体験ですが、夕暮れ時の阪神電車で淀川を渡るタイミングにこの曲を聴くと最高です。是非一度試して下さい(笑)。


『サムシング・エルス・バイ・キンクス』がここまで心に残るのは、もちろん曲が素晴らしいのですが、カウンター・メロディーを奏でるコーラスハーモニーの美しさが尋常ではないです。本当なら弦楽器で装飾するところを全部ハモッている。たぶん弱小パイレコードには、豪勢なストリングスを付けるほどの潤沢な資金が無かったこともあるでしょうが、レイ・デイヴィスなりの多重録音によるコーラスワークを試みている気がしてなりません。音の奥行きや複雑なコーラス、アルバム全体のインドアでダウナーな印象など、当時のビーチボーイズと同種の鬱状態が感じられてなりません。名盤本には決して載らない名盤、それがこのアルバムに相応しい冠なのでしょう。





















by ekakimushi | 2017-05-27 22:48 | 音楽えかきむし | Trackback | Comments(0)
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