1012 <今宵『ペイン・イン・マイ・ハート』を>

   

オーティス・レディングは曲としてもアルバムとしても名作の多い人ですが、私は本作『ペイン・イン・マイ・ハート』で、涙腺が決壊しそうになる想いを何度も体験しました。後に不世出のソウルシンガーとなる野暮ったい南部の若造。その発車駅がこの作品です。さっそくCDをプレーヤーに乗っけると、スピーカーから流れてくるのはアルバムタイトル曲「ペイン・イン・マイ・ハート」。モコモコした演奏の音をバックに、かすれ気味に堂々と唄うオーティス。なんと味わい深い。とても21~22歳の唄だとは…。それは一角の政治家か宗教家みたいなオーティスの姿を写し取ったジャケットを見てもらえればわかると思う。それと同時に、誠に不思議な話しですが、劇場を改装して作ったというスタックスのスタジオ情景が、この一曲ではっきり浮かんできました。私は何の情報も知らなかったはずなのに…またそれが、妙に正確だったものですから、後に鳥肌がたったわけです。


「ペイン・イン・マイ・ハート」を唄えたのが偶然ではなく、オーティスに当たり前みたいに備わっていた表現能力だとわかるのが、前半の「ザ・ドッグ」「スタンド・バイ・ミィ」「ユゥ・センド・ミィ」といった超有名曲のカバーです。オリジナルに全く埋もれることなく、唄だけで充分カバー・アレンジになっている。後に<オリジナル殺し>と言われたアリサ・フランクリンの出現で少し陰に隠れた感はありますが、どれもタイトでシンプルに咀嚼している。いなたい唄と演奏に、どうしてこんなに惹かれるんだろうか。(当時のノーザンソウルは、もっとおしゃれでモダン。このアルバムはそんな評価はおそらく受けなかったでしょうが。)しかし本当に凄いのはアルバム後半で、少なくとも6曲中3曲は後世に残る名曲です。


ジェニー・ジェンキンスという歌手の付き人をしていたオーティスが、彼の余ったレコーディング時間を使わせてほしいと申し出て、スタジオのミュージシャンらに同意をもらって初めて唄ったのが「ジィーズ・アームズ・オブ・マイン」。たぶん、スタックスのミュージシャン連中は、瞬時にして嗅ぎ取ったと思う。サム・クックやソロモン・バークとは全く違う唄のセンスと才能を。それぐらい素晴らしいオーティス節が、この1962年のデビュー自作曲には込められています。何度聴いても、サビのかすれた唄声に胸がグッと熱くなる!正真正銘の名唱、完成品だと思う。叶わぬと知りながらも、この曲を生で聴いてみたかった!


それ以上に素晴らしいのが「我が心の糧」です。私は「ドック・オブ・ザ・ベイ」でも「お前を離さない」でも「リスペクト」でもなく、この曲でオーティスに溺れました。とにかく唄い出しからどんどん聴き手を引きずり込む。バラードなのに、リズムものに負けないテンポの凄い吸引力。最後のあがくようなシャウトの痛みが、耳にこびりついて離れない。なぜこんな風に哀しく寂しく唄うのだろう。ホーンも含めたバックの演奏も文句なし。特にスティーブ・クロッパーのギターは、オーティスの唄との相性が抜群で、こんなコンビは何処を捜してもそうはいないと思う。


「セキュリティ」もコクがある。持ち味の一つなってゆくミディアム・バラードのプロトタイプの曲でしょう。(これが他の人ではなかなか唄えない!カバーが少ないのも頷けます。)いろんなヒストリーものを読むと、黒人ミュージシャンの進行形ポピュラー音楽の通称が、このアルバムを境に<R&B>から<ソウル>に呼び名が切り替わり始めたという説があります。もしそれが本当なら、『ペイン・イン・マイ・ハート』というアルバムのタイトルは、あまりに真実の的を突き過ぎています。なぜならオーティス・レディングとは、生涯心に籠った痛みを唄い続けて死んでいった男だからです。


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by ekakimushi | 2017-07-22 21:04 | 音楽えかきむし | Trackback | Comments(0)
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