1013 <あるダミー本>*

先日、とある作家さんコンビによる絵本のダミー本を見せていただく機会がありました。ダミー本というのは絵本の体裁で読んだり見たりできるように整えられたラフ描きのこと。主に売り込みをする際に、この体裁で提示します。(もちろん完成度は人によって違いますが、絵本としての読み取りが可能なものであれば良いのです。)


そのダミー本は既に完成されたもので、ラフというよりは市販本と言った方が良い出来でした。美しく製本もされていましたし、ネーム(文章)も印字されていました。絵も本番用といってよい仕上がり。見る人によっては、店頭に並んでいてもおかしくないと思うかもしれません。


そして内容。巷で蔓延している甘ちゃん風味がほぼ皆無の作品で、塩っ辛い印象。読者にすり寄らない淡々とした物語の展開と、時に首筋をなめられるような奥深い表情や風景の画風。文章・絵ともに、少なくとも今流行とも売れ線とも思えない。しかし何かが残る。触れられたくところを軽く撫でられたような読後感。


特に絵がキテいました。カラーコピーで製本されているため、原画を拝見したわけではないのですが、おそらくあんなものではないでしょう。画力という言葉がありますが、まさに見るものを画面に引っ張り込んでしまう力がありました。テクニックと情念が無理なく同居しているところから来ていると思う。場数と多さと、懐の深さは相当なものです。


このダミー本がこの後どういう経緯を辿るのかはわかりませんが、子ども主体の読者向けに商業出版される可能性は、残念ながら少ないと思う。その理由は、文章作家も画家も読者に媚びないスタンスを貫き通しているからです。それが絵本を売る業界側の理屈からすれば、無愛想で、売れ筋外(売りにくい)の絵本と受け取られる可能性があると感じました。


わかりやすい絵本、読み聞かせしてウケやすい絵本、人気絵本の続編もの。本屋さんの絵本棚を席巻する売れ線の絵本は、そのセールスポイントで本を開く前から読者を引きつけているものばかり。強力なハードヒッター絵本であるが故に、読者の能動的な咀嚼・消化能力を退化させてしまうような、手取り足取りの事前準備を施してあるものも多いと私は思っています。


そんな気が利き過ぎるような品が多く揃った本棚へ、あのダミー本が割って入る余地があるだろうか。

私が不安に思っているのは、いったい何なんだろうか。

もう少し考えてみようと思って、もう5年が経ってしまいました。

あのダミー本が商業出版になったという話しは、いまだ耳に届いていません。


(*日記No.499 2012年6月11日掲載のリメイクです。)


f0201561_17572843.jpeg
添付されている画像の無断転用・使用を禁止いたします。





















[PR]
by ekakimushi | 2017-07-25 18:03 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : https://ekakimushi.exblog.jp/tb/28000160
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。