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1089 <新刊絵本『ミカちゃんのひだりて』2/4>

『ミカちゃんのひだりて』という絵本を作ろうと思ったきっかけは何だったのだろう。何か大きな出来事とか、印象に残る言葉や景色などがあったか?と言われたらちょっと考えてしまいますが、ある居心地の悪さに心当たりがあって、それが消えずに残っていました。まるで海に浮かんだプラスチックのように、私の意識の空間を何の意図もなく浮遊していました。複数の細かなパーツが散らばったり集まったりして、まとまりを欠いていました。

他の多くの人たちと同じようにはやりたくない自分がいる。それは私が子どもの頃から絶えず感じていた不思議の一つでした。ある人はそのことをわがままと言って眉をひそめたり、ある人は離れた場所で静かに冷めて見ていたりしたわけです。成人になってからも、知らぬ間に団体行動の線路から外れてしまうことがあり、それは57歳になった今でも頻繁に現れます。決して私が変わり者なのではなく、「何でもかんでもみんなと一緒」だと、居心地の悪さを感じてしまうのです。

この心象について考えていたとき、胸のあたりがぼんやりと温かくなる瞬間がありました。もう四年ほど前のことです。それは物語が背後に潜んでいることを感じた証であって、これまで何度も体験してきた体感現象です。これがあると本当に作品になってゆくのだから、単なる体温知覚とはいえ、馬鹿にならないのです(笑)。かくして、のそりのそりと、作業は始まりました。

とはいっても自分の個人的な心的印象だけでは絵本にはなりそうにもないので、もっと一般的な、誰もが感じるであろう、他者と自分との違いに対する違和感にして描いてみようと思いました。主人公はいつものような既視感のある男の子ではなく、私が今まで取り上げて来なかった女の子にして、物語はこれまた私にとってよくわからない別な女の子が、関西弁独白形式で進行してゆく設定にしました。私としてはかなりの冒険!失敗するかもしれないし、うまく滑り出しても不安がなかなか消えないだろうなと予想していました。

作中の主人公ミカちゃんも、語り手のユリちゃんも、明確にモデルになった女性がいます。彼女たちの今の姿や存在、個性を遡って、それぞれの子供時代を想像してみました。だからモデルとはいっても、素材として使わせてもらったという感じです。それでも、私の意のままに(時には意に反して…笑)自由に動いてくれた二人の女の子は、やっぱり実在の人物なくしてはやって来なかったでしょう。二人ともそれだけの強い個性がある人たちなのです。

大まかなラフができあがり、それを幸運にもひかりのくにの編集者さんが気に入ってくださり、出版に向けた作業が始まりました。各駅停車のような速度で、ゆっくりゆっくり言葉や場面が現れては消えてゆきました。私は絵本を作るのが好きなので、ああでもないこうでもないと迷う過程はさほど苦にはならないです。むしろ何かを作る味わいは、その時々の混沌や右往左往にこそあると思っています。

ある夜にネーム作りの作業をしていて、こんなふうに思った事がありました。もし私が周囲にいる多くの人たちの顔色を見て、付かず離れず歩調を合わせて生きてゆく事に満足できるタイプの人間だったら、おそらく絵本を描くような仕事には就いていなかっただろうな、と。だとしたら、社会的動物としての私になにがしかの同化を強制してきた環境が、今私に絵本を作らせているのではないでしょうか。このような被害者的な発想は多かれ少なかれ、どの人の心の裏庭にも住み着いているのではないでしょうか。

個が集団の中で浮き上がってしまうことはザラにあります。そのことを強く意識しなくても、悩んだりしなくても、私らはただぼんやりと生きて行ける。問題は居心地がいいのかどうか、それが大事なのだと思います。『ミカちゃんのひだりて』に書かれている心象は私自身のことであり、読者自身のことであり、あらゆる社会で役割を担って生きざるを得ない生き物のことです。決して特定の子どもや女の子だけにある、特殊な境遇や時間や局面ではないです。

絵本の読み取りは様々で、時に作者自身が思いもしないような接し方をする読者に出会うこともあります。そこに作者の想いなど介在する余地はないのです。世に出ていった作品は、全て自分の足で歩いてゆくものです。『ミカちゃんのひだりて』はどんなふうに読まれるんだろうか。私にはまたひとつ、楽しみが増えたのですね。

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最も初期の表1ラフ。

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第二稿での表1ラフ。キャラクターの細かいところに変化が。

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三稿。髪型等、ここでほぼ出揃った感じ。

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なのに四稿ではガラリと変わり、、、

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結局最後はこうなりました(笑)。


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by ekakimushi | 2018-06-29 16:39 | 絵のこと | Trackback | Comments(0)