8月28日付けの朝日新聞朝刊に下記のような記事が掲載されました。
「図書館がベストセラーを過剰に購入しないように、ルール作りを。国がそんな検討の場を今秋にも設ける。急減している書店の支援策として、自民党の議員連盟が出した提言を受けたものだ。」
図書館での複本(複数の備えがある本)が「無料貸本屋化」しているため、書店の売り上げを減らす一因になっていると、数年前に出版社や作家が声を上げたことがありました。海外では図書館での貸し出し本にも印税が支払われるケースがあることを知って、これでは国によって随分不公平だなと思ったことを覚えています。(この時は具体的に特定書籍の複本冊数が挙げられていたと思います。)その後さしたる盛り上がりもないままこの話題は下火になっていたところへ、今回の記事です。しかし、腑に落ちない点が多いです。
書物の売上が落ちている要因の一つを図書館の複本だとすること、これは本当に正しいのか?記事によると、過剰な複本の実態はほとんどないとの証言が日本図書館協会からあり、最近は資料購入費が減って本が買えないことの方が大きな問題となっていることを指摘しています。さらにTRC(図書館流通センター)によれば、限られた資料費で満遍なく図書を揃えようとすると、特定の書籍ばかり購入することは難しいとの回答があります。つまり自民党の議員連盟が提言しようとする根拠が見当たらないのでは?
更には日大の教授が2019年に600作品を調査分析したところ、ある書籍が全国の図書館に100冊所蔵されていたとして、日本全体でその新刊売上げは6冊減ることがわかったそうで、自民党の議員連盟さんたちは、6冊を重く見たということなんでしょうか?図書館vs書店という甚だ見当違いの図式を描いて動く前に、実態に正確に迫ってから声を上げるのが筋という気がします。ましてや書籍の選定に国がとやかく口出しする行為をどう考えているのか?大いに疑問を感じます。
それと同時に、以前「無料貸本屋化」と図書館を批判した出版社はその後どういうスタンスを持っているのか?今回の蔵書購入ルールの件をどう捉えているのか?本が売れないことと図書館の蔵書にどういった因果関係を見ているのか?その見解を聞いてみたい。そして今後国会でどういう議論が展開され、どんな情報が開示されるのか、末席ながら出版に携わる者として目を光らせておきたい思いです。